「今聴いてほしいアーティスト」と関連楽曲を、音楽が伝えるメッセージや社会的・音楽的文脈などと併せて渡辺志保さんが解説します。
今月のアルバム
ザ・ウィークエンドのアルバム『Dawn FM』を紹介します。
2012年にメジャーデビューしたカナダ出身のアーティスト、ザ・ウィークエンド。2019年リリースの楽曲「Blinding Lights」はTikTokのダンス動画の流行も後押しして世界的大ヒットを記録。2022年のアルバム『Dawn FM』は全体を通して一つのラジオ番組のような構成になっており、世界中のチャートでトップを獲得している。コロナ禍の閉塞感から脱却し「夜明け」へと導くザ・ウィークエンド
写真: BANG Showbiz
「You’ve been in the dark for way too long. It’s time to walk into the light. (あなたはずっと暗闇の中にいた。さあ、光に向かって歩き出すときが来た)」というラジオDJの語りで幕を開けるのが、ザ・ウィークエンドの5thアルバム『Dawn FM』だ。架空のラジオステーション「103.5 Dawn FM」が舞台となっており、アルバムの随所でナレーションを務めるラジオDJ役には、なんとあのジム・キャリーが起用されている。新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界中がどんよりした未知の暗闇に引き込まれて早2年余り。特にエンタメ界が歩んできた道のりは、この未曽有の状況下において、決して明るいものではなかった。ザ・ウィークエンド自身、パンデミック時期にアルバム制作を始めた際、最初はかなり暗い内容の作品ができてしまったと言う。そこで、「暗いトンネルを抜け出す際にラジオDJがガイドとなり光が差す方向へと導く」というコンセプトに変更し、この『Dawn FM』が完成したそうだ。
本作において、特に日本のリスナーの耳を引く楽曲が「 Out of Time」だろう。実はこの曲、日本のシンガー、亜蘭知子が1983年にリリースしたアルバム『浮遊空間』の収録曲をサンプリングしたものなのだ。ここ数年、かつての日本のシティポップが世界的に愛されている 傾向 にあるが、ザ・ウィークエンドもまた、その魅力を自作に取り込んだアーティストの一人となった。
全体を覆う80年代のテイストはザ・ウィークエンドのお家芸とも言えるもの。ノスタルジックなシンセ・ポップと、憂いを帯びたザ・ウィークエンドの歌声。そこにジム・キャリーのセリフが乗せられると、まるでトンネルの中へと吸い込まれて異世界へトリップしてしまうような感覚すら覚える。多くのレビューサイトでも、既に今年を代表する傑作アルバムだと軒並み高評価を得ている本作。タイトルに「dawn(夜明け)」とあるとおり、閉塞感高まる昨今において、多くのリスナーを 希望 へと導くガイディング・ライトになるだろう。
80年代フレイバーを感じさせる楽曲5選
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ザ・ウィークエンドのアルバム
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※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2022年4月号に掲載した記事を再編集したものです。渡辺志保 音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビュー経験もあり。block.fm『INSIDE OUT』をはじめ、ラジオMCとしても活躍中。
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